2011年、富士急行は「富士吉田駅」から「富士山駅」へと名称を改めました。現在でも公式サイト内にその概要を示す文書が公開されています。その文書の目的として次のように明記されています。
- 富士山の玄関口としてイメージを更に高め、国内、海外から富士北麓
エリアへの観光客誘致を行うとともに、富士山観光のターミナルステ
ーションとしての機能の充実を図る。
- 「富士山に一番近い鉄道」の観光鉄道路線としてのイメージアップによる旅客誘致を行う。
世界文化遺産登録に向けてのパフォーマンスの一つだと思うのだけれど、これが以上目的、とりわけ「海外からの観光客誘致」には逆効果かと。
これ日本語では「富士山駅」で済むのだろうけど、英字表記に統一性がないのです。まずはGoogle Mapの英語表記。これは日本語に則って"Fujisan"と書いてある。
![](https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEixpaWgXlYTAS7xSUP8k33sVvvvQ_2R0B-PFx36gHNLW6nFWbfXvBPG3MVkc2mCuufOSa_aqKO6w3QX0qN2V-8PepQuRxSJEF6dK_44uj2aelT2p5GLrSrJR1EBsfNqDP9hnKtqQ5Rd_AA/s200/fuji_map01.jpg) |
Google MapではFujisan |
しかし、富士山駅の観光案内所で配布されている"Useful information of Five Lakes area"と題された英語観光地図には"Mt. Fuji"と書かれている。(なお同紙は発行元の明記はされていないが、配布所・内容・URLなどから富士急行の関連会社が発行していると思われる)
![](https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgUj0mN5QdZzZ1BHwm_1elG5a0pXNP0JYjbELeK_tw-6ZBqd9mkW_Uy6XwKYwWWvoqvdn1R9ewN_dwvJQ9Dbmv6mSt5bx3sXg_f_uAoYlHQ6qo51zDajzqn37kvR-JiZvHU0bJrEhbZ-Zc/s320/fuji_map04.jpg) |
観光案内所の地図はMt.Fuji |
さらに問題を感じるのは公式サイトの英字表記だ。富士急行サイト内の料金表には"Fujisan"としているのに、サイト内の観光案内簡略図には"Mt.Fuji"と書かれている。正直、公式サイトですら統一がなされていないのは、笑うしかない。
しかし"Mt.Fuji"と改めると一つ問題がある。「富士山駅」という場合、"Mt.Fuji Station"と発話することになるが、ここで出てくるのは「富士山五合目」が英語では"Mt.Fuji 5th Station"と呼ばれること。そもそも~合目という概念は日本オリジナルであり、それを無理に訳したものが"~th/rd station"にあたる。すると「富士山駅」と「富士山五合目」が混同しやすくなってしまうのだ。
もちろん説明すれば何も難しいことではないが、どこでどのように説明するのだろうか。こうした事情からも全くもって無意味な改名をしたと指摘せざるえない。なお英語圏で広く使われている国別観光ガイド本Lonely Planet"Japan"でのコラムを引用する。富士山駅の改名に関する記述である。
FUJISAN TRAIN STATION In 2011, Fuji-Yoshida Station changed its name to Fujisan Station. It's also commonly referred to as Mt Fuji Station in English. This is not to be confused with Kawaguchi-ko Fifth Station which also commonly referred to as Mt Fuji Fifth Station. It's not a train station but a climbing access point (and bus stop) on the mountain, the staring point for the Kawaguchi-ko Trail to the summit. Confused yet?
-『lonley planet Japan』(pp.154)より
2020年の東京オリンピックにむけて、都内では標識の改名を行っているという。例えば「国会正門前」交差点は"Kokkaiseimonmae"から"The National Diet Main Gate"といった具合に英語自らの意味を優先的に採用するものだ。
観光庁は『
観光立国実現に向けた多言語対応の改善・強化のためのガイドライン(PDF)』(2014)において固有名称の地名表記に関して次の通り述べている。
- 普通名詞部分を切り離してしまうと、それ以外の部分だけでは意味をなさなかったり、普通名詞部分を含めた全体が不可分の固有名詞として広く認識されている場合には、全体の表音表記に加えて、普通名詞部分の表意を表記
- 駅名や施設名として使用され (駅名)ている等、日本語による表音表記が確立されている場合は、表音表記した後、表意を括弧()で括って表記
富士山駅の場合、どっちつかずといったところか。もし外国からの観光客が富士山五合目に向かいたい場合、個人的には「河口湖駅」のほうがおすすめだ。一つは電車の終着駅が河口湖駅であること、もう一つは駅周辺が観光地として栄えているために比較的、英語での案内が豊富であるということ。
今後は富士山駅"Fujisan"と表記してしまい、日本語の少し知識があれば「へぇ」程度で終わらせる影の薄い駅になったほうがいいのではないかとさえ思う。
ただ個人的には富士吉田駅に戻していただきたい!